大判例

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静岡地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決

原告

落合邦弘(X)

右訴訟代理人弁護士

大橋昭夫

被告

(金谷町長) 孕石善朗(Y)

右訴訟代理人弁護士

林範夫

坂巻道子

"

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  右第二の一の2の事実に〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

1  金谷町内に本社及び起点たる金谷駅を置く大井川鉄道は、かねてから蒸気機関車牽引の列車(以下、動力車として蒸気機関車を使用する列車を「SL列車」という。)を運行していたが、昭和五二年にスイスのブリエンツ町を起点として同じくSL列車を運行するロートホルン鉄道と姉妹鉄道提携を行い、以来、両鉄道会社の間で交流が保たれてきたところ、平成元年ないし平成二年ころから観光による町政振興を図っていた金谷町は、その施策の一環として、右両鉄道会社間の交流を足掛かりに、SL列車の始発駅を抱えるという共通点を有し、かつ、観光収入による豊かな町づくりを推進しているブリエンツ町との間で姉妹都市提携をすることを企図し、平成二年七月に金谷町長及び金谷町議会議長がブリエンツ町を訪問し、また、同年一〇月には、金谷町に来町して大井川鉄道を訪問したロートホルン鉄道関係者及びスイス連邦政府観光局ブリエンツ駐在官などを迎えるレセプションに、金谷町長、金谷町議会議長が出席するなどして、ブリエンツ町との交流を図っていた。

2  しかるところ、平成三年七月一五日、大井川鉄道の子会社である旅行会社の大鉄観光から金谷町当局に、(一) ロートホルン鉄道は西暦一九九二年(平成四年)六月一七日に創立一〇〇周年を記念する祝賀会を催し、国内外の関係者約二〇〇名を招く予定であること、(二) ブリエンツ町は、西暦一九九六年(平成八年)の開町八五〇周年に向けて大規模なプロジェクトを進行させており、現段階では経済的にも時間的にも金谷町と姉妹都市提携事業を進める余裕はないものの、右西暦一九九六年を姉妹都市提携の年としたいとの意向が窺われること、(三) スイス連邦政府観光局ブリエンツ駐在官からは、それまでの間も両町の友好関係を途絶させないようにすることが肝要であるとのアドバイスを受けたこと、などの情報が伝えられた。

その後、さらに平成四年三月ころ、大井川鉄道又は大鉄観光から金谷町当局に、ロートホルン鉄道と大井川鉄道との姉妹鉄道提携一五周年を記念するレセプション(本件レセプション)が同年七月にブリエンツ町の代表やスイス連邦政府観光局関係者等も出席してブリエンツ町で催され、日程をこれに合わせた本件ツアーが行われることが伝えられるとともに、本件レセプションに金谷町の代表者が出席することについての打診があった。

3  これを受けて、被告を初めとする金谷町当局は、ブリエンツ町との姉妹都市提携に向けて、両町間の友好を深めるため、本件レセプションに金谷町の代表者を出席させることを検討協議したうえ、平成四年第二回金谷町議会定例会に提出するため調製した平成四年度金谷町一般会計補正予算(第一号)の歳出第二款(総務費)第一項(総務管理費)第二目(秘書広報費)第九節(旅費)に、研修旅費として右代表者の派遣のための概算費用八四万円を計上した。右補正予算は平成四年六月一一日に金谷町議会に提出され、可決された。

4  被告は、右補正予算の可決後の平成四年六月一二日に、金谷町議会議長に対し、鈴木副議長にブリエンツ町を訪問させ(但し、旅行日程は本件ツアーに合わせ、同年七月五日から同月一二日までとされた。)、本件レセプションに金谷町を代表して出席させるよう要請し、金谷町議会議長は、同月六月一五日、被告に対し、鈴木副議長が本件レセプションに出席することに決定した旨回答した。

5  そこで、被告は、平成四年六月一六日ころ鈴木副議長に対し本件出張命令をし、さらに、同月二九日ころ、支出負担行為とともに本件支出命令をした。

本件支出命令は、急行料金及び新幹線料金を含む鉄道費(金谷・成田間)一万五二二〇円、日当四万九六〇〇円(一日につき六二〇〇円)、支度料七万円、雑費八〇〇〇円、旅行費用五七万五〇〇〇円(本件ツアーの料金と同額であり、したがって、航空運賃、スイス及びフランスにおける交通費、宿泊費、食事料を包含するものと解される。)、合計七一万七八二〇円を支出額とするものである。右のうち、日当並びに支度料は、金谷町議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例(昭和三三年金谷町条例第一三号。なお平成三年金谷町条例第三号による改正後のもの。以下同じ。)第五条、別表第一所定の議員が調査等の職務を行うため海外旅行をしたときに支給される費用弁償額であり、また、鉄道費及び雑費は、同条例第七条により、議員に対する費用弁償に準用される金谷町職員の旅費に関する条例(平成三年金谷町条例二号)二三条、一三条、二四条、二七条によって海外旅行の旅費として算出された額である。

なお、右のほか、金谷町議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例第五条、別表第一によれば、議員が調査等の職務を行うため海外旅行をしたときには、宿泊料(実費)、食事料(一夜につき六七〇〇円)が、また、同条例七条により、議員に対する費用弁償に準用される金谷町職員の旅費に関する条例第二四条によれば、外国旅行の旅費として、鉄道賃、航空賃、車賃等(いずれも実費。但し、その実費額は旅行命令権者がその都度町長の承認を得て決定する。)が支給されるものとされている。

6  なお、鈴木副議長は、本件旅行から帰国した後、本件支出命令に基づいて、支出された概算払いの旅費につき、精算額を零とする精算手続をした。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  原告は、地方自治法の議会の権限に関する規定上、議会が公費をもって議員を国内外に派遣することは同法に根拠を置くものではなく、また、議会がその裁量により議員の内外派遣をなし得るともいえないから、本件出張命令は違法である旨主張する。

しかし、右一で認定した事実関係及び第二の一の3の事実によれば、鈴木副議長に対する本件出張命令は、金谷町行政当局の長である被告が、その行政目的を達成するために、金谷町議会議長の了承を得て、同議会副議長である鈴木副議長をブリエンツ町に派遣することとしてなしたものであって、同議会が鈴木副議長を派遣して本件旅行をなさしめたものでないことが認められるから、原告の右主張はその前提を欠くものであって失当である。

なお、付言するに、市町村長は、当該市町村の行政目的達成のために必要があるときは、当該市町村の職員のみならず、その議会に所属する議員を海外に派遣することもなし得るものであって、その派遣の要否、派遣する議員の人選、日程等については、議会側に対して相当の配慮をなすべきであるとしても、その決定は市町村長の裁量に委ねられているものと解すべきであり、市町村長が右目的のために議員を海外に派遣すること自体が直ちに違法となるものではない。

三1  原告は、鈴木副議長のした本件旅行が物見遊山の観光旅行であり、本件ツアーの最小催行人数二五名を満たす目的のものであるから、本件出張命令は違法であるとも主張する。

2  しかしながら、まず、鈴水副議長のした本件旅行が本件ツアーの最小催行人数を満たす目的でなされたことを認めるに足りる証拠は全くなく、〔証拠略〕によれば、却って、本件ツアーの参加者は、鈴木副議長の参加の有無にかかわらず、その最小催行人数二五名を上回っていたことが認められる。

3  次に、右一で認定した事実関係及び第二の一の3の事実によれば、鈴木副議長のした本件旅行は、ブリエンツ町において本件レセプションに出席したほかは、本件ツアーの日程に沿って、主としてスイス各地の観光地を巡るものであったこと、鈴木副議長に対する本件出張命令は本件ツアーに参加して旅行することを前提としており、本件支出命令もその前提で旅費計算をした額を支出額としていることが認められる、

しかしながら、右一で認定した事実によれば、鈴木副議長に対する本件出張命令は、ブリエンツ町との姉妹都市提携を企画する金谷町行政当局の長である被告において、金谷町とブリエンツ町とのそれまでの交流の経過や、大鉄観光を通じて得たスイス連邦政府観光局ブリエンツ駐在官のアドバイスなどを踏まえながら、右姉妹都市提携の足掛かりとする大井川鉄道とロートホルン鉄道との姉妹鉄道提携一五周年記念の本件レセプションの機会を利用して、これに金谷町の代表者として同町議会副議長を出席させ、右レセプションに出席するブリエンツ町の代表者等との接触交流により、右両町の間の友好関係をより強固なものとして、将来の姉妹都市提携に資することを直接の目的としてなされたものであることが明らかであり、かかる目的の下に町議会副議長を金谷町の代表者として派遣することが被告の裁量を逸脱するものとは認め得ない。なお、原告は、鈴木副議長が本件レセプションで読み上げた被告のメッセージが金谷町とブリエンツ町との友好親善に役立たないとか、ブリエンツ町が金谷町との姉妹都市として相応しいといえないとかと主張し、〔証拠略〕中にも同旨の部分があるが、いずれも原告ないし同証人の個人的な意見の域を出るものではなく、右の判断を左右するに足りない。

また、右一で認定した事実に〔証拠略〕を併せ考えると、本件出張命令が、本件ツアーに参加して旅行することを前提としたのは、鈴木副議長をブリエンツ町に派遣するに至った経過によることのほか、本件ツアーの料金が、もし本件ツアーに参加しなかった場合には旅費として支給することとなる航空運賃、スイス及びフランスにおける交通費、宿泊費、食事料の合計額を下回るとの判断によったものであることを認めることができる。しかして、一般に、ツアー旅行の料金は、個別に旅行した場合の費用に較べ割安であることが通常であるし(〔証拠略〕中の個別に旅行した場合の費用が却って安価である旨述べる部分は、その根拠や具体的な金額などにわたる部分が極めて曖昧であって、到底信用することができない。)、また、鈴木副議長を本件ツアーに参加させることとした場合には、派遣の直接の目的であるブリエンツ町を訪れるほか、主としてスイス各地の観光地を巡ることになるが、右一で認定したとおり、観光による町政振興を図る金谷町において議会副議長である鈴木副議長をスイスに派遣するに当たり、その機会を利用して観光先進国であるスイス各地の観光地を視察させることとなるとしても不相当とはいえない。

そうすると、公費による海外出張に民間旅行会社主催のツアー旅行を利用することに全く疑問の余地がない訳ではないものの、本件ツアーに参加して旅行するものとして本件出張命令をしたことが被告の裁量を逸脱したものとまでいうことはできない。

4  したがって、鈴木副議長のした本件旅行が物見遊山の観光旅行であるとか、本件ツアーの最小催行人数を満たす目的のものであるとかとする原告の主張も失当である。

四  以上によれば、本件出張命令に原告主張の違法は認められず、したがって、本件支出命令が違法であるとはいえない。

(裁判長裁判官 荒川昻 裁判官 石原直樹 小林直樹)

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